名古屋地方裁判所 平成7年(わ)2147号 判決
裁判所書記官
久保則昭
本籍
愛知県春日井市東野町九丁目九番地の七
住居
右同所
廃棄物処理業
井上正夫
昭和八年七月二五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金一三〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、肩書住所に居住し、愛知県小牧市大字大草字中内に処分場を用意し、「東春土建」の名称で廃棄物処理業を営んでいたところ、平成三年には産業廃棄物処理にかかわる売上げのほか、伐採整地や建築土木にかかわる売上げ等多額の売上げがあり、同年分の実際の所得が一億二九〇七万五四七円であったにもかかわらず、自己の所得税を免れようと企て、所得税の確定申告に際し、所得金額に関する正当な収支計算をせず、適宜の過少な所得金額を計上するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、平成四年二月二一日、同市中央一丁目四二四番地所在の所轄小牧税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が四六六万八〇〇〇円で、これに対する所得税額が三〇万七八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額五九九九万五五〇〇円と右申告額との差額五九六八万七七〇〇円の所得税を免れた。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
以上のほかは、検察官請求証拠等関係カード甲番号1ないし23及び同乙番号1記載の各証拠と同一であるから、これらを引用する。
(法令の適用)
罰条 所得税法二三八条(懲役と罰金を併科)
労役場留置 平成七年法律第九一号による改正前の刑法一八条
執行猶予 同改正前の刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、被告人がもともと健全な納税意識に欠けていた故の犯行としか考えられず、たまたま平成三年には本来の廃棄物処理による売上げのほか、請け負っていた伐採整地や土木の仕事の売上げ金が多額に入り、所得が伸び、いきおい脱税額が急騰したものと理解されるものの、その動機・経過は同情に値しない。脱税額や脱税率を併せて考慮すると、被告人の刑事責任は軽視できない。
さいわい、査察が入り、起訴されたのを契機として、自己の所為を深く反省し、個人事業を会社組織に変更し、税理士に依頼して経理面を正確、明確化しようとの意欲を示していること、本税、延滞税等は未納付ではあるが、税務当局との間では長期分割納付の下話ができていること、人身交通事故による二度の罰金前科を除いて前科が見当たらないこと、その他財産状況なども斟酌して、今回に限り懲役刑の執行を猶予することとし、併科する罰金額を算定した。
よって、主文のとおり判決する。
(検察官堀本久美子、主任弁護人山岸赳夫公判出席)
(裁判官 油田弘佑)